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- 2017.06.09 Friday
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ある日担任(高円寺円盤店主たぐちさんのこと)からメールが来た。
円盤9周年会をやるので、DJをしないかと。
DJ。
せんせい。またわたしに宿題を。わたしはDJというものをしたことがありませんでした。なので、お店に押しかけていって、「ねー!DJってどうやればいいの!?」と、訊いたらば、担任は、「こうやればいいんだよ」と言って、片手を耳に当て、片手でスクラッチのような真似をしました。えー。「わたしCDしか持ってないから、ソレできない!」「やればいいよ。ぎじゃぎじゃになるよ。」「やだー!」「一回やれば、『何やってる人ですか?』とか訊かれた時に、『アイドルなんですけどー、たまにDJもやってます』って言えるからね」「うおおおお!言う!いけてる感じで言う!」「アイドルとDJって、のりピーだね」「そっち!やってないやってない、シャブはやってない!」というような会話があり、その日は訪れたのでした。
DJにかんして「これか!」と思うことがあったというのを、ブログに書きましたのでよろしければ。
選曲よりも何よりも先に、誘われた瞬間に服だけは決めたのだ。
これだ!
これに、どピンクに白水玉のインド綿のパジャマっぽいぷかぷかのパンツをはき、てろてろずるずるしたカーディガン着ていきました。DJ=ゆるい服!宇宙マッサージで有名な、プリミ恥部さんという男性がいるのですが、この日のわたしは小さいプリミ恥部に見えたそうだ。後で本当にやってきたプリミ恥部さんも水玉のぷかぷかパンツをはいていて、完全にかぶった!すごい。
店に行くとDJのタイムテーブルが出ていた。店主たぐちさんを皮切りに、数名が持ち時間45分ずつでまわしていく。たぐちさんのは、シングル盤3枚100円コーナーからランダムにかけるというもの。以後、いろんなバンドの人がかわるがわるかけていく。わたしはビールをがんがんに飲み、差し入れの食べ物をがつがつ喰らいつつ、「どうしよう」とわなわなしていたわけさ。
「わーっ!どうしよう!わたしみんなみたいにちゃんとできないよ!だいじょうぶかなあ」と、錯乱して担任に泣きついたら、担任はなんと、
「だーいじょうぶじゃ。わしはあゆみならできるって信じとるんじゃ。きっとできるわい。」
と、おじいちゃんの真似でてきとうに激励してきた(わたしの本名はあゆみです)!宮沢章夫言うことろの、「『わしはおじいさんじゃ』と言う老人はいない」の、実在しないおじいちゃんの口調で。てきとうだ。
そして、超いまさら、隣に座っていた人に「あのヘッドホンって何に使うんですか」と訊く。DJといえばヘッドホン。だからこそ、このTシャツを選んだのだが、用途がわかっていない。答えは、DJブースにはプレイヤーが2つついていて、それを交互にかけて切り替えるのだが、1枚をかけている間にもう1枚の音源の頭出しや音量・音質の調整を、あのヘッドホンで聴きながらするのだということです。ほへー。なんかもっとよくわからないことをやっているのかと思っていたら、割と単純な作業に使っているのだな。しかし、自分がやるとなるとできる気がしない。
かける曲を順番にCDRに焼いてこようかと思ったのだが、それはなんというかDJではない気がして、何より手持ち無沙汰になりすぎると思い、CDをがばっと持ってきたのだ。しかしリズムをしりとりみたいにしたり、ちょうどいいとこでかぶせたりなど、できるわけがない。わーーーーーっっ!こわいよう。
しかし、前の人のDJを見て、自信を持った。周りに3人くらいついて、あれこれと機械の操作などを手伝っている。介護士だ。ようし、介護つきならわたしだってDJできるぞ。わたしの時もよろしく!!
というわけで、手厚い介護のもと、かけた曲は以下の通り。
1.「Philosophy of the World」 Shaggs
2.「チュウイングガム」 割礼
3.「クリテン星人の癇癪」 漏電銀座
4.「自律神経失調舞踊」 漏電銀座
5.「あとまわし」 チャゲ&飛鳥
6.「夏は過ぎて」 チャゲ&飛鳥
7.「みなしごのシャッフル」 人間椅子
8.「放浪人―TABIBITO―」 チャゲ&飛鳥
9.「サイケでいこう」 渚よう子
10.「エレクトロワールド」 Perfume
11.フィールドレコーディング
12.「wendy」 remote
13.「神の扉(こうべ)、開けたまへ」 町田町蔵
14.「標的(ターゲット)」 チャゲ&飛鳥
15.「りんごの木の下で」 吉田日出子
選曲の基準は、円盤に売ってなさそうかつ、円盤であんまりかからなそうな曲で、キャッチーで、ネタじゃなくてわたしがほんとに好きな曲。踊れるっぽいことをちょっとだけ意識。
解説してもよーがすか。
1.シャッグス。なんか、円盤でシャッグスかけるのって、「知ってる」感出ちゃって恥ずかしいかな、どうしようかな、やめよっかな、って自意識と戦いつつかけた。アメリカの、子煩悩のパパが娘たちに組ませたバンド。へたくそさがサイケになっていてとても気持ちがよい。少女らしさも溢れていて、休日の昼にお菓子作りながら聴くととてもうっとりします。「おお!いちばん好きなバンドだよ」と言ってくれた方あり。
2.初期の割礼。今ではぎゅるぎゅるのったりサイケな割礼だが、初期はぺなぺなしたガレージパンクみたいのだった。シャッグスのぺなぺなからつなげてみた感じ。ちなみにエーツーの「名もなき歌ってゆーかジャムパンの歌」という曲は初期割礼を意識しています。
3.漏電銀座は漫画家の逆柱いみり氏のバンド。にゃらにゃらきゅるきゅるした、最高に好きな質感の音を作っています。
こことかここで、氏の絵とともに少し音が楽しめます。いきなり音出るから注意。
それからここで素晴らしい絵が見られるのでぜひ。
でも「クリテン星人の癇癪」は間違ってかけちゃったんです、てへ。「クリテン星人」というのはいみり氏考案の怪獣。ぺこぺこしたロックいギターが脳に来る曲。
4.漏電銀座の曲の中で最もすきなのがこの「自律神経失調舞踊」。歌詞がたまらない。
2番の歌詞を引用します。
花びらが散っている 耳の穴の奥で
鼓膜をやぶりまぶたの裏を埋め
三半規管は花吹雪に狂わされて
自律神経失調の踊りでまわりつづける
花咲く森は脳天にそびえ
加速度をつけ重く降る花が
花見の客をひらったく押しつぶす
「花咲く森は脳天にそびえ」って、気持ちよすぎる。じゅるんじゅるんの、極楽っぽい音がする。
5.チャゲアスのファースト。無意味なアンデス風味がたまらない。歌に狂う男についていけない女の歌。何その自己言及。リズムはドドンパ?ってやつ?あの足踏みしてるようなベースのやつね。
6.チャゲアスのファースト。世界観が古風(日傘、紬、爪紅など)。リズムのどんこどんこどんこどんこ、てのがいいのです。
7.リズムのどんこどんこどんこどんこつながりで人間椅子のセンチメンタルな曲を。うまくつなげてはなかったような。これも世界観がレトロかつ少女趣味で大好きな曲。クリスタル、ベルベット、モノクロ写真。作詞・作曲はもちろんギターの和嶋さん。和嶋さんの少女趣味って陳腐でロマン過剰なとこが変態っぽくて気持ち悪くてたまらんのです。
8.初期チャゲアス。間違ってかけちゃった。本当は「華やかに傷ついて」ってのをかけたかったのですが。これはチャゲの力み具合がとんでもなくて笑っちゃう。
9.渚よう子の中でこれがいちばん好き。「サイケデリックでいきましょう、ギンギラギンでいきましょう」って、思い切りがよくてキャッチーで、かっこいい歌詞ですね。
10.サイケ歌謡な渚よう子からこのピコピコ音鳴る、ってのがかっこいいと思ったので。ノリノリでした(わたしが)。パフュームはいつも切ないから好きだよ。
11.フィールドレコーディング。という用語を担任に教わったので、そこらへんで録った音をはさんでみた。夕方、街のスピーカーから流れる「ふるさと」、行方不明者保護のお知らせ、会社の独り言女子の激しい独り言。あんまり聞こえませんでした。
12.故・池田貴族のバンド。歌ってばかりの男に愛想つかす女シリーズ2。しかもお前が歌ってんのこんな歌だろうがよ、とつっこまずには聴けない。「君のダイヤルまわして7桁目でやめ」たり、「伝言板に君の細い文字見つけた」り、アナログならではの恋の醍醐味はぜんぶ入っている。ポケベルが鳴らないよりもメールが届くよりも、こういうのが、歌としてはいいなー。他、ダイニング後片付け君に押し付けてんのに君は温かいスープ作ってくれたり、てめえ恋人はかーちゃんじゃないんだぞ、という節もあり、つっこんだり呆れたりこれだよ、と思ったり、いろんな気持ちになる名曲です。
13.持ってる町蔵のCDの中で、最もよくわからないのが「ほなどないせぇゆうね」というアルバムで、この「神の扉(こうべ)、開けたまへ」はその1曲目。なんだかにちゃにちゃしていてガラクタ箱ひっくり返したみたいで、パンクらしくもなく、何らしくもない。わたしがものを知らないだけだと思うが。しかしとても大阪らしいとは思う。新世界っぽい。初めて買った町蔵の音源がこれだったので、後からINUとかを買って、むしろ整然としてんな、と感じた。
14.チャゲアスの曲って、遊び慣れた男女のアバンチュールみたいな曲が多いのだよね。やな感じにエロい。これはその中でも調子がよく、キッチュにまとまった名曲なのです。コーラスというか女性の嬌声とか、銃声の効果音(ターゲットだけに)とか、安い古いアレンジに心が躍る。サビが「今夜の的は外せない外せない」ってんだけど、小学生の頃「今夜の窓は外せない外せない」って空耳してて、漫然と「泥棒」を思い浮かべてました。「盗んだ心返さない」とも言ってたし。あほ記憶。
15.最後はこの曲、ってすぐに決まりました。人からもらった吉田日出子のカセットテープをPCに取り込み、音楽ソフトを使ってトラック分けした。このトラック分けが、ソフトを使い慣れていないせいで無駄にすごく苦労した。吉田日出子はもらったカセットテープしか知らないが、大好きだ。天真爛漫な、ひずみのない感じがして。鼻歌すると気分がよくなる。
おもしろかったのは、いろんな人がいろんな曲にバラバラに反応してくれたことだ。シャッグスを「いちばん好きなバンドだ」と言う人、漏電銀座を「これ何?いいね」と言う人、リモートを「これすごくいい!!」と言う人、「りんごの木の下で」を一緒に歌う人。それから、「顔が面白い」と言う人。どうやら真剣な顔でCDかけてんのが面白かったらしいです。いやはや、DJやって顔を褒められるとはね。「今まででいちばんかわいかった」という、酔っ払いならではの出まかせの褒めも発生してました。今までのほかの局面で、もっとかわいい瞬間があったはずだと思いたいです。
そんなわけで俺のDJ筆おろしは終わったわけさ。
イエスタデイワンスモア
イエスタデイワンスモア、ワンスモア
北の町から戻ったあたしがその後すっかり納得して朗らかに暮らしたかというと、全くそんなことはありませんでした。不在の穴は依然ひりついて痛みました。あの山の中に心を置いてきてしまったみたいで、遠くから自分を操作しているようなもどかしい感覚にいつもつきまとわれていました。
時間が経っても、他の何かで穴が埋まるということはなく、それでも、欠損したかたちのまま固まってきて、それに次第に馴れてゆくのだとわかりました。初めから終わりまでひどく不確かな存在であっためい君の面影は生々しさがすぐに薄れてしまって(生々しさというのが正確かは判りません。時間が経つほどかれに関する記憶は鮮明になっていきましたから。でも、かれがあたしの前にいた、なまの時間から遠ざかるにつれて確実に変質してしまう何かがありました。生きた時間の流れに触れていないことでこぼれ落ち損なわれてしまう何かが)、あたしが忘れたら、かれはほんとうにどこにもいなくなってしまうのではないかと思われました。
それはつまり、息がしやすくなるということでもありました。だけどあたしはこわかったのです。めい君の面影が、不可抗力のようにあたしの中から出ていってしまうことが。あたしが思った時にだけ居たことになるまぼろし、理科の実験教材の、金属片ふたつのスイッチ、あれを触れ合わせた時だけ点く豆電球の灯り、その時だけ流れる微弱な電流、かれはそれになってしまったのではないかしら。だからあたしは、傷口をひらくようにして、かれのことをつとめて想いました。ひらいた傷口の中にそっと水を遣るみたいに記憶を反芻して乾かさないように乾かさないようにと、ままならない息を吐いたのです。しかし、そのことも、次第に薄れてゆきました。
今では、「私から見たあなた」と「あなたから見た私」がこんなにも隔たっている人間関係はそうそうなかったろうと思います。あれは人間関係ではなかったのかも知れない。
それでもあたしはめい君の記憶をたいせつに思います。顔もちゃんと知らないひとに(もしかしたら知らないからこそ)恋してしまったこと、何も分からないまま旅に出てしまったこと、そして、ひとの仕草や声なんかが、雪融け水が地下で濾過されて湧水となるように、たくさんのレベルをもった時間や慣習や風土の中をめぐってつくられるものだということ、そのことをかれが見せてくれたこと。
そう、あたしはかれに「雪」と「水」のイメージを重ねて見がちでした。かれが北(あの町よりももっと北らしいのです)にルーツを持つと知ったのは、ずいぶん後のことでした。めい君が発していた旋律のような澄んだものは、仕草や声として発現する前段階の微細なふるえだったのでしょう。それを聞き分けたことは、あたしには少しだけ誇らしいことなのでした。
つくしの群生を見るとあたしはめい君のことを思い出します。不在の穴にはハコベの花がいよいよ白く敷き詰められています。これでめい君の話はおしまいです。