玄関を出てすぐの田んぼに、オモダカが咲いている。オモダカは、矢尻を長く引き伸ばしたような形の葉をしていて、7月上旬あたりから、白い花を咲かせる。花びらは3枚でとても薄く、雄花の芯はぽっと黄色く、雌花の花芯は緑の小さなお団子状。非常に可憐ですずしげな花だ。朝開き、午後にはしぼむ。棟方志功の肉声のレコードを聴いたら、他はあんまりよく聞き取れなかったが、「オモダカ」と何度も言っているのはわかった。子供の頃、転んでオモダカを見上げた時、その美しさに感銘を受けたのだとか。
オモダカと入り混じるように、何種類ものかやつりぐさが生えている。線香花火のような繊細でしんみりした穂をつけているもの。もっと華やかな手持ち花火級のもの。
青々とした稲はいま穂をつけて、そばを通ると青みの中にむっと甘い米の匂いが混じった、なんともいえない香りがする。
田んぼの前の道は、いつも水びたしだ。梅雨のあいだは、そこに無数のちいさな宝石のようなあまがえるが跳ねていた。今は水にひかれてやってきたシオカラトンボが何匹も飛び交う。
オモダカ、かやつりぐさ、稲、シオカラトンボ。白と黄色と黄緑、緑と茶色と黄土色、緑と黄緑、青白と黒。植物と水と虫。
毎朝この光景を見てから働きに出る。「いつもここから」、というコンビ名が、すごいな、と思ったのは、職場が嫌な感じになっている時などに、このオモダカの光景を思い出して、「いつもここからはじまってるんだから、だいじょうぶだ」と自分に言い聞かせることがあるからだ。「いつもここから」。すごいよ。